・事情
依頼者は、個人事業主であった夫が急逝し、債務と財産の相続問題が発生したことにより、専門家の助言を求めておられたところ、税理士の紹介で、当事務所に相談に来られました。
一番の不安は、①工場の運営資金としての借入を相続しないといけないのかどうか
②夫名義の自宅不動産を相続できるのか の2点。
相続人は、妻・子2人の合計3名。
妻は、夫とともに工場の運営を担ってきたが、業界の先行きに不安がある点、後継者がいない点から会社を閉鎖したいが、夫名義の自宅があり、その家は残したいとの希望でした。
弁護士は、上記①②の不安を解消する方法として、限定承認という相続の方法をご説明したところ、依頼者は納得され、手続きをご依頼いただきました。
約1億円ほどの債務があるため本来であれば相続放棄をしたいところですが、なじみのある不動産に住み続けたいというご希望でしたので、限定承認を選択し、不動産の価格をみて、相続人が自宅を購入するかどうか決断することになりました。
・経過と結論
まず、被相続人の死亡から3ヶ月までには、相続財産(負債)の調査が終わらないと思われたため、相続の承認・放棄の期間伸長申立を行いました。
その上で、依頼者と一緒に、相続財産(負債)の調査を行いました。
取引業者と良好な関係を築いておられたため、工場の明渡や工具器具備品の売却等は協力していただき、速やかに行うことができ、助かりました。
裁判所に、限定承認申述を行い、依頼者が申述人として選任された後、財産の換価作業を進めました。
債務総額約8600万円に対し、不動産査定価格723万円ということになり、相続人は自分で買い取ることはせず、不動産の競売を行いました。
財産としては、その他に車がありましたが、そちらは鑑定人を選任することで、高い価格で売却できました。
結局、債務総額約8600万円を配当率9.3030%で配当し、事件は終了となりました。
・今回の解決事例のポイント
自宅を残したいという依頼者の意向により、限定承認を採用したが、裁判所も取扱件数がほとんどないため、手探りでの事件対応となりました。自宅・車について鑑定→競売という複雑な手続きをとることになりましたが、高値で売却でき、適正な配当ができたことは良かったです。
限定承認申述という相続の方法は、相続の承認と放棄の中間のような位置づけで、相続財産の範囲内で相続負債へあてる手続きですが、選ばれる理由として、不動産の換価をする際、相続人が買い取ることもできるという点です。
今回の事例では、依頼者の方は、不動産の買い取りをされませんでしたが、お世話になっていた取引先に、相続財産から少しでも債務を返済できたことがよかったとおっしゃっていました。
相続は、予期せぬ問題として浮上することも多々あります。今回のように、個人事業主がお亡くなりになった場合、家族だけの問題ではなく、事業継承の問題、取引先各所との問題がでてくるため、複雑になります。ただでさえ、深い悲しみに突き落とされていらっしゃるご親族の方々ですが、現実は待ってくれません。「どうしたらいいのかわからない」このお気持ちに寄り添って、相談者の希望に近い解決方法を提示するのが、法律の専門家である弁護士の使命です。まずは、ご相談ください。一歩踏み出すお手伝いをさせていただきます。
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