裁判員制度について
第1 裁判員制度の概要
第2 裁判員制度の意義~民意反映の手段
第3 展望
第1 裁判員制度の概要
平成21年5月21日から裁判員制度が開始されました。なぜ、裁判員制度というものが導入されたのでしょうか?
まず、制度の概要ですが、裁判員制度は一定の重大事件について、選挙権を有する国民から選任された裁判員6名と裁判官3名がともに議論し(評議)、結論(評決)を出します。
裁判員の仕事は、大きく次の3つです。
①公判(公開法廷での刑事裁判の審理)に立ち会い、書証や証拠物、証人尋問の取り調べに参加します(裁判員が直接証人や被告人に質問することもできます)。
②取り調べた証拠に基づいて、有罪無罪、量刑(どのような刑にするべきか)を裁判官と一緒に評議し結論を出します(評決)。
③評決内容に基づき公開法廷で裁判長が判決を宣告します。
(参考:裁判員制度対象事件を定める法律の条文) ・裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 第2条 1項 「地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条又は第3条の2の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第26条 の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。 「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪(刑法第236条 、第238条又は第239条の罪及びその未遂罪、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)第1条ノ2第1項若しくは第2項又は第1条ノ3の罪並びに盗犯等の防止及び処分に関する法律(昭和五年法律第九号)第2条又は第3条の罪を除く。)に係る事件」 |
第2 裁判員制度の意義~民意反映の手段
裁判員制度導入の意義については司法制度改革審議会の意見書によると「一般の国民が、裁判の過程に参加し、裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されるようになることによって、国民の司法に対する理解・支持が深まり、司法はより強固な国民的基盤を得ることができるようになる。」とされています。
1 司法への民意反映手段
上記意見書の前半部分は裁判員制度により裁判に民意が反映される意義が強調されていますがどういうことでしょうか。
(1)民意反映の手段と司法権の本質との関係
ア 裁判に対する民意反映の現行制度
憲法の統治システム上裁判に民意を反映する制度は、以下の通りです。
イ 司法権の性質
このように現在の統治システムでは裁判に対する民意反映は、裁判官の任命・罷免に関するものにとどまっており、民主的コントロールを忌避している印象があります。そもそも、国民主権の下全ての国家機関存立の基盤は国民の意思にあります。それにも関わらず三権の一翼を担う司法権に国民参加の制度がないのは司法権の本質に由来するものです。すなわち国家統治システムの目的は人権保障にあり、民主主義は人権保障のための手段原理です。選挙により多数派の意思が国政(国会・内閣)に充分に反映されることで治者と被治者の自同性が維持され、多数派の人権が確保されるのです。よって、国民の多数派の人権は民主主義を手段とした政治部門により保障されます。
他方、民主主義の原理では保護されないマイノリティーの権利は、事後的に人権の砦として裁判所が人権保障の貫徹を図る。これが憲法が描く人権保障のシステム、役割分担です。このように司法権の使命がマイノリティーの権利保障にある以上、多数派意思からの独立が要請されます。多数派意思を反映した政治部門からの独立が、司法権の使命貫徹のため必要なのです。
以上の通り、司法権の本質から政治的関与を最小限に留めつつ、民意を反映させようとした苦肉の策が現行制度なのです。
(2)民意反映の必要性
多数派意思を忌避するために、司法権を構成する裁判官は選挙で選任されたものではありません。すなわち司法権は国家機関でありながら民主的基盤を有しない機関なのです。それゆえに司法権の存立基盤は唯一国民の信頼にあり、仮に公正中立性を欠く裁判が行われば、国民の裁判に対する信頼は損なわれ、裁判制度そのものが機能しなくなるおそれすらあります。
これが、司法権への民意反映が要請される根拠です。もっとも、少数者の人権の砦という裁判所の使命からすると、多数派意思による政治的干渉を極力避けなければなりません。とすると、裁判への民意反映の手段はおのずと国会・内閣以外の国民自身の裁判参加となるのです。
(3)裁判に対する民意反映手段としての裁判員制度
以上のような司法権の性質をふまえた上で適切に国民意思を反映させる制度にするために裁判員制度は設計されています。
例えば、評議をつくしても全員の意見が一致しない場合の評決は多数決でなされるが裁判員だけによる意見では被告人に不利な判断をすることはできず、裁判官1名以上が多数意見に賛成していることが必要となります。
このように国民意思を反映しつつ、感情的な判断を排除して裁判の公正を維持する工夫がなされているのです。
2 司法に対する国民の啓蒙
裁判員制度の導入の契機として従来の裁判が国民の支持を得ていなかったのかと言えばそうではないと思われます。 裁判員制度は国民からの要求で成立したというよりか、政治部門が国民を導いて成立させたものです。
よって、政府の意見書の後半部分に「国民の司法に対する理解と支持が深まる」とあるとおり、平たく言えば裁判所は近寄りがたいところであるという国民意識を変革して、裁判に国民を直接参加させることで、ひいては国民の国政参加を促そうという狙いが背後にあるように思われます。
第3 展望
裁判員制度がどれくらい上記意義を全うできるかどうかは、今のところ分かりません。
裁判員制度の趣旨が全うできるかは、国民の一人一人がこの国の主権者であるとの意識をどれだけ覚醒できるかにかかっており、成功すれば選挙以上に参政への意識発揚になるでしょう。
若者の政治離れ、投票率の低下が指摘される昨今、裁判員制度が、国民自身が主権者であるという自覚を促す契機になり、私を含めた国民の意思が十分に反映されるように社会が成熟することを祈念いたします。